校長室だより

2016.04.06

平成28年度 1学期 校長あいさつ

 この体育館には6学年がそろって学校集団を構成しますが,今日はまだすべての学年がそろっていません。でも,明日には183名の中学1年生と、210名の高校1年生が入学します。新年度を迎え、皆さんもクラス替えが行われ,新しいクラスの中で、新しく親しい人間関係を結んでいただきたいと思います。今日はその親密な人間関係をつくりあげるうえで,心に留めてほしいことを、少しお話します。
 3月11日に管理棟の横にある掲揚台に国旗、校旗が上から半分の高さで止まっていたと思います。こうした旗の挙げ方を「半旗」と言います。5年前の東日本大震災で失われた尊い命を思い、哀悼の真を捧げる日と全国で実施されています。肉親、親戚、友人、妻子を亡くし、生きていく術を根底からなくして、呆然として日々を送ることを余儀なくされた多くの方々が残されてしまいました。
 みなさんは阿川佐和子さんというエッセイストを知っているでしょうか。彼女の「聞く力」という本のなかで、この震災のことを語っています。阿川さん自身も東京に居て、「自分は何をすべきなのだろうか?」と真剣に悩み続けたそうです。そういう状況の中でコピーライターで活躍している糸井重里さんへのインタビューの仕事があり、糸井さんとの対話で自分をとりもどします。これから述べるのは糸井さんの言葉です。
 「僕はずっと、被災地に行く理由が見つからないんだけど行かなきゃならない、という気持ちがあって、でも理由がなきゃ観光旅行と何が違うんだって、自問自答していたんです。」そんなとき偶然ネット上で被災地の22歳の女性と知りあいます。糸井さんは自分の気持ちを素直に吐露しました。するとその女性が次のように応えたそうです。
 「行くなら尋ねてほしいところがあります。避難所です。避難所の人たちは、話をする相手がいない。なぜなら、家が壊れた話を訴えたところで、みんな同じ目に遭っているから、誰も驚かないのです。家族を失い、自ら九死に一生の体験をしながらも、その話をすると、「ああ、私はもっと怖い経験をした」という言葉が返ってくるだけで、誰も親身になって耳を貸してくれるような状況ではないというのです。」糸井さんはその話を聞いたとき、行く!俺に何ができるかわからないけど行く!って思った」そうで、その言葉を聞いた阿川さんもすぐさま「『行く!』と決心したわけではないけど、『聞く』だけで、人様の役に立つんだ」ということを知り、なんだか胸のつかえが一気に降りた思いがしたそうです。
 「聞く力」というのは、時と場合によっては大きな力を発揮するものだな、と私も認識を新たにしました。
 新しい出会いがはじまります。知らないことを聞く、相手の気持ちを聞く、そしてお互いが理解する集団に育っていって欲しいと心から願っています。
 では、新年度心爽やかなスタートをみなさんとともに切れることを願って挨拶とします。

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