校長室だより

2016.03.22

平成27年度 修了式 校長訓話

 みなさんは「クリティカル・ピリオッド」という言葉を聞いたことがありますか?例えば生まれたばかりの子猫を横線だけで囲んだ飼育箱の中で,約2週間育てます。その後,普通の環境の中にもどすと,猫の視覚に障害が起きることがあるそうです。つまり横の線だけでの環境で育てられたため,縦の認識ができなくなるそうです。この実験から、猫にとって生後2週間は,視覚のためにきわめて大切な期間で,この期間に環境を認識するための適切な条件を整えてやらないと,完全な視覚が発達しないということです。
 もっと一般化していうと,生物にはそれぞれの成長段階に適合した条件なり刺激を与えないと,正常な発達を望むことは出来ないと言えるようです。「クリティカル・ピリオッド」の「クリティカル」とは,「批評的」という意味の外に,「きわどい」とか「危険な」という意味があります。つまり,猫の視覚にとって生後2週間は,まさに「きわどい点」,ある意味においては「危険な点」であると言えるのではないでしょうか。
 同じことが,皆さんが今学習している内容にも、ある程度言えることがあります。例えば日本人にとって,RとLを聞き分け正しく発音できるようになるには,小学生くらいまでが限界であると主張する研究者もいます。レストランに行って「パンでなく,ライスにしてください」といっても,それは英語圏の人にとっては米でなく,シラミと聞こえるようです。
 人間のもつすべての能力について,その「クリティカル・ピリオッド」が解明されているわけではありません。しかし,授業をする先生方は,1年生段階はこれとこれ,2年生段階ではこれとあれというように,大まかな「クリティカル・ピリオッド」を把握しながら,毎日の授業を進めています。
 人間は素晴らしい能力を持っている生物ですが、それらは、はじめは「潜在」しているのであって,その潜在能力を機能させるような刺激が与えられ,訓練がなされないと,潜在能力は隠れたままで終わってしまいます。
 1年間,あるいは2年間を過ごしてきて,学校の授業は厳しいなとか,難しくてとてもついていけそうにないなどと,思い悩んでいる人もいると思います。
 しかし新しい年度が始まります。みなさんも「クリティカル・ピリオッド」に想いを馳せて,今努力していることが自分の能力を伸ばすことにつながると意を強くもって,新しい年度を迎えていただきたいと思います。

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