校長室だより

2019.03.04

高等学校第54回卒業式 校長式辞

 早春の気が満ち、寒風に耐えた木々が早や小さな蕾をつけはじめ、ここ松笠山周辺にも春の息吹を感じる今日の佳き日、ご来賓、保護者のみなさま多数のご臨席を賜り、厳粛のうちにも晴やかに卒業証書授与式を挙行し、巣立ちゆく若人の門出を祝福して戴きますことは、真に有り難く、心からお礼申しあげます。
 ただいま卒業生百九十八名に卒業証書を授与いたしました。そのとき卒業生の目の輝きに、この三年間の教育の成果を見る思いがいたしました。「おめでとう」「よくがんばったね」という言葉に、目で、心の中で「ありがとうございました」と返してくれたことを私の脳裏にしっかりと焼き付けておきたいと思います。卒業年に「平成」という文字が描かれるのも最後であり、今まさに、みなさんは新しい時代へと駆け抜けようとしています。
 また長い間、陰に日向にいろいろとお心を痛められ、ここまで育ててこられた保護者やご家族の方々のお気持ちは、いかがであったでしょうか。思いひとしおのものがあるとお察しいたし、改めてお祝い申しあげます。本当におめでとうございます。
 さて三年間、木々の息吹を感じる春に始まり、若さみなぎる夏に汗し、木々の葉の散る秋に愁い、寒風吹き荒む冬の厳しさに絶え、心と知識を育んできました。この間、国の内外を問わず社会の変化にも激しいものがあり、時には悩み、悲しみ、怒ることもあったと思います。この間に生じました事象を追いましても、その激しさがうかがえます。地域紛争、自然災害、教育問題、経済状況等々、喜びもありましたが、それ以上に危機とも言える現象が津波のように押し寄せてきました。
 みなさんは、このような社会状況の中においても、多くの方々の支えによって今日の日を迎えることができました。現在の生活は豊かで幸せでありましょう。みなさんは高校二年生の十月に海外はベトナム、国内は沖縄への修学旅行を行いました。特に海外修学旅行は世界情勢への配慮から急遽変更した渡航先でした。沖縄もベトナムも年数に違いはあれ、痛ましい戦争という渦中にあって、学びたくても学べなく、まして青春を謳歌するなど考えることすらできず、若くして散っていった人々の現実を感じる瞬間もあったことと思います。今の豊かさや平和は一朝一夕によって得られたものではありません。これからも、もっと、もっと大切にしていかなければなりません。今のみなさんがあるのは、父母、兄弟、先生、友人、地域の方々の暖かさの中で育まれた努力の所産なのです。今日という日は、多くの人々の心に感謝し、今までの自分を振り返る日でもあると思います。
 幸いみなさんは、この広島城北高校で「学んで厭かず、教えて倦まず」というすばらしい校訓のもとで学業に励みました。自らを律し、知的好奇心を膨らませ、豊かなこころをもった生き方は、円滑な社会生活を送るうえで欠くことのできないものであり、自分を大切にし、同時に人をも大切にする生き方につながるものです。みなさんが本校で培った力をもってすれば、どのような苦境に立とうとも必ずや正しい方向を見出し、さらに高い次元へと歩みを進めていけるものと確信しております。

 They are ill discoverers that think there is no land, when they can see nothing but sea.
 「海以外は何も見えないからといって陸がないと思うのは、未熟な探求者である。」

 これは私が折りに触れ紹介するイギリスの哲学者フランシス・ベーコンの言葉です。AI、ICT、シンギュラリティ等々、様々な言葉が飛び交う中、日本の教育の方向も大きく変革することが強く求められています。みなさんは、まさに変化が求められる社会に飛び込んでいきます。すぐに目的地にたどり着かなくても、捜し物は必ず見つかります。いつかは陸地にたどり着きます。柔軟な頭脳を鍛え、情報の選別能力を高め、何が適切なものであり、自分に必要なものかを選べる力が大切になります。大切な時間を無駄にすることなく、勇気を持って生き抜いていただきたいと思います。
 みなさんの将来は、未知数ではありますが、みなさんには本校で身につけた、絶えず学び、苦しくても努力しつづけるという基礎的な力があるはずです。みなさんが三年間の学校生活の中で折りに触れて見せてくれた素直で明るく若さに溢れた姿は、鮮明な印象として私たちの心に強く残っています。
 終わりになりましたが、ご来賓のみなさん、保護者のみなさん、そして教職員のみなさん、本日はありがとうございました。厳粛なうちに、清々しく卒業証書授与式が挙げられましたことを心から感謝し、卒業生の洋々たる人生が開けるよう祈念して式辞とします。

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