2016.03.02
校長室だより 3月号
〜 未熟な探求者とならないように〜
「人の言葉をきちんと受けとめられないのは、人の心を大事にしないところにあるのではないか。人の言葉に謙虚に耳を傾けようとする姿勢があれば、私たち人間は、様々な面において、もっと向上する筈である。」
これは佐藤充彦氏の著書の中で紹介されている『氷点』という作品でデビューされた三浦綾子さんの『残された言葉』の中の一節です。三浦さんは作家として世の中に出るまで、13年間にわたる闘病生活で生きることに懐疑的にならざるをえなかったそうです。しかし、多くの人との出会いで支えられ、やがて洗礼を受けてから生きる力を得て多くの作品を誕生させました。そうした作家生活で次のようなエピソードを紹介しています。作品を読んだ人が感想を寄せるようになったが、なかには『永点』に深く感動しました、と書いてくる人があったそうです。『氷点』と『永点』ではまったく意味が違う。三浦さんは本当に感動したのかなあと疑問に思ったそうです。その後も『塩狩峠』を「石狩峠」としたり、『道ありき』を『道ありて』とか『道なくて』と勝手なタイトルをつけてくる人がいて、そのいい加減さに三浦さんはあきれてしまったそうです。相手ときちんと向き合って、耳でなくて心で聞くように鍛錬すれば、そんな失敗はしないようになるだろうと結んでいます。
今日は3月2日です。昨日214名の卒業生を送り出しました。全員の未来が輝かしく開けていくことを祈念しています。51回生となった卒業生ですが、広島城北高等学校の校長として初めて送り出した生徒たちです。私にとっては51という数字はいつまでも心に留まるものとなりました。
They are ill discoverers that think there is no land, when they can see nothing but sea.
「海以外は何も見えないからといって陸がないと思うのは、未熟な探求者である。」フランシス・ベーコンの言葉です。人生の大海原を前に、探し求めるものが見つからないと嘆いたり、不満をもらしたりする人々への戒めの言葉です。昨日卒業していった214名は、自分の名前を呼ばれると体育館いっぱいに響き渡るようなしっかりとした声で「はい」と答えてくれました。彼らは心で話ができる人間になる、決して未熟な探求者にはならない、という思いを強くした卒業式でした。
平成28年3月 校長 岩本 光彦